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東征童話「兎と亀と蟻ときりぎりす」
その一、「兎と亀」
 昔、昔、ある村に兎と亀がいました。
 兎は頭が良く、なにをしても村で一番だと自他ともに認めていました。亀はのんびり屋で、村一番どんくさいといわれていました。村一番の兎は、なぜか村一番のろまの亀のことが気になって仕方ありません。自分が亀に抜かれて村で二番になるのではないかと根拠のない強迫観念にとりつかれていたのです。  ある日、兎と亀が道でばったり出会いました。
 「これこれ、村でべったのどんがめや。おぬしさいきん生意気になったのう。おぬし心の中ではこのわしのこと馬鹿にしとんとちゃうかえ。」
 「これはこれは村一番の兎さん。めっそうもおまへんがな。このどん亀がなんじょう村一番の兎さんを馬鹿になんかしますかいな。あんさんはほんまに偉いさけのう。聞くところによると、あんさんは兎の世界のナンバーワンやっちゅうことや。わしも亀の世界ではちょっとは知られとるけんど、まだベストテンにも入っとらんのじゃ。わしゃいっつもあんさんにあやかりたいと願うておりますのじゃ。いや、ほんま。」
 「なんや癇にさわるやっちゃのう。いっぺんおぬしをぎゃふんといわせてやろうぞ。どうじゃ、来週の日曜日の正午、山の向こうの村まで42.195キロメートルどっちが早う着くか競べよやないか。」
 「あんたがそんなにいわはるならよろしおすけど、勝負は初めからついてますわなあ。」
 兎は何で競争しても亀を負かす自信があったのですが、自分が最も得意とするマラソンを挑んだのでした。途中で昼寝でもしないかぎり、兎が亀に負けることなどありえないのですが、兎は亀ののんびりした態度に言い知れぬ不安を覚え、一週間練習に励みました。
 一方、亀のほうはマラソンのことも忘れてしまったかのように、いつもどおり昼寝の毎日でした。
 いよいよ兎と亀の対決の日がきました。 「位置について、ようい、ドン」  兎はこの日のために体調を整えた甲斐があり、全速力で走ることが出来ました。40キロまで走ったタイムは世界記録を更新していました。
 亀の方はのっそのっそとマイペースで歩き、兎が世界記録でゴールしそうだとの場内アナウンスがあった時、まだ百メートルしか進んでいませんでした。
 村人たちの多くは、のんびり屋の亀がなにかするのではないかと期待し、亀のまわりに集まっていました。 「ひょっとするとひょっとするかもしれん思うて見とったが、こら勝負あったようやのう。」
 その時です。亀は頭、四本の足、しっぽを甲羅の中に引っ込め、後ろ足の穴からジェット噴射を出しました。そして亀は、ゴール目指して一直線に超音速で空を飛んでいきました。
 兎の目にゴールが入りました。と、その時兎の真上を超音速の亀が通り過ぎていきました。何が起こったのかわからずきょとんとしていると、亀がグリコのマークの格好でゴールのテープを切りました。亀に追い抜かれたことを知った兎は、全速力で走った疲労と、ショックからその場に倒れ、気を失い救急車で運ばれていきました。
 亀が入院中の兎を見舞いに来ました。
 「兎さんどや、大丈夫か。わしゃあんさんにあやまらなあかん。どうやらわしはあんさんを過小評価しとったようや。もうちょっとでわしが負けるとこやった。あんたはほんまに偉いのう。」
 兎は生まれて初めて心の底から泣きました。

その二、「蟻ときりぎりす」
 夏。蟻さんたちがせっせ、せっせと餌を巣に運んでいると、ヴァイオリンの音が聞こえてきました。
 「やあ、きりぎりすさん、こんにちは。あんたは本当にヴァイオリンが上手だねえ。しかしきりぎりすさん、ヴァイオリンの練習もいいが、今のうちに冬支度をしておかないと、冬になったら飢え死にしてしまうよ。」
 「やあ、蟻さん。忠告ありがとう。でもいいんだ。僕にはヴァイオリンがある。ヴァイオリンを弾いてさえいれば、たとえ飢え死にしても本望なんだ。」 「そりや人にはいろんな考えがあるけど、冬になって後悔してもしらないよ。後悔先にたたずだよ。」
 冬。今や大スターとなったきりぎりすは、カーネギーホールの大会場でヴァイオリンを弾いていました。満場の喝采を浴び、アンコールにも応え楽屋に戻ってくると、一通の電報が届いていました。
 「アリサンタチ オオユキ二トジコメラレ ゼンメツス」
 きりぎりすはしみじみと思いました。 「かわいそうに。場合によっては、ぼくの方がのたれ死にしていたかも知れない。蟻さんたちは、まさか自分たちが雪に閉じ込められて死んでしまうなんて思っていなかっただろうなあ。あの時蟻さんたちに他の生き方があることを教えてやっていたらよかった。確かに後悔先にたたずだ。」

その三、「亀ときりぎりす」
 世界的な大ヴァイオリニストのきりぎりすと、世界連邦大統領の亀が出会いました。
 「やあ、あんたは大ヴァイオリニストのきりぎりすさんとちゃいますか。わしもあんたの演奏を聞いたことがあるけど、あんたのヴァイオリンはほんまに人の心を打ちますなあ。」
 「これはこれは、大統領。世界に平和をもたらしたあなたに一度お目にかかりたいと思っていました。光栄です。」
 「ほんじゃ。」 
 「それでは。」
 二人の間にはたったこれだけの会話しかありませんでしたが、その後、亀は今までに会った人物で大物はだれかと尋ねられると、「きりぎりすさんはすごい人やった。わしはあの人にはかなわんやろなあ。あれこそ英雄と呼ぶにふさわしい人物や。わしなんかまだまだ。」と答えるのでした。
 きりぎりすのほうも、最高の芸術家がだれかとの問に対して「本当の意味での天才は亀さんですよ。あの方はぽくなど足元にも及ばない才能の持ち主です。」と答えるのでした。

その四、「蟻と兎」
 亀との勝負に敗れ、故郷を捨て流浪の旅に出た兎と、ただひとり大雪の被害から逃れ浮浪者となった蟻が出会いました。
 「世界連邦大統領やゆうていばってる亀がおりますやろ。昔あいつはこのわしの子分やったことがありましてん。あいつはなまいきなやつで、わしにマラソンの勝負を挑んできたことがありましてなあ。わしはゴールの直前で寝たふりして、あいつに追い抜かさせて花持たせてやりましてん。せやのにあいつは出世しよって、今ではわしのことなんか無視しとる。けったくそ悪いやっちゃ。」
 「私にも似たことがありますよ。今ヴァイオリシで有名なきりぎりすがいるでしょ,彼が飢えながらヴァイオリンの練習をしているとき、私は彼に援助していたんですよ。それなのに、有名になってからは私に恩返しするのも忘れて、薄情なやつですよ。」
 兎と蟻は別れた後、お互いをつまらない叔だなあと思ったのでした。
 知力トレーニングを毎日行なっている亀ときりぎりす、知力トレーニングを続けることができなかった兎と蟻の物語だったとさ、ゲッタラポンポンべラメッチャ。

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